東京電力福島第一原発にたまる処理済み汚染水の処分方法が、海洋放出と大気放出の二つに事実上、絞り込まれた。処分方法について政府に提言する経済産業省の小委員会が23日、とりまとめ案を議論し、大きな異論は出なかった。3年にわたり風評被害の影響を検討してきたが、根拠にしたのは結局「前例」だった。
溶け落ちた核燃料を冷やす注水で生じる汚染水は、多核種除去設備(ALPS(アルプス))で処理しても、放射性物質のトリチウム(三重水素)が取り切れずに残る。放射性セシウムなどに比べると放射線が弱く、国内外の原子力施設では濃度などを管理して流している。
だが、事故を起こした原発だけに風評被害が問題になる。小委員会は、この水の処分方法を専門家らが社会的な観点から検討する場。技術的な検討をした経産省の作業部会が報告書で示した五つの方法を踏まえ、2016年11月から16回の議論を重ねてきた。
経産省が小委に示したとりまとめ案は、①薄めて海に流す海洋放出、②蒸発させる大気放出、③両者の併用の3ケースに絞った議論を提案するものだった。
社会的影響については「量を定性的、定量的に比べるのは難しい」とし、方法の優劣の判断を示さなかった。委員からは「海洋放出は、社会的な影響が極めて大きいとはっきり書くべきではないか」などの声は出たものの、絞り込んだことを覆す意見はなかった。
根拠としたのは前例だ。海洋は国内の原発や再処理工場の数字を、大気は米スリーマイル島原発事故の例を引用した。処分量や濃度も「前例と同程度の範囲内にすれば風評への影響が抑えられる」とした。地層注入など他の三つは前例がなく、技術的にも時間的にも現実的でないとして退けた。処分の開始時期や期間は「政府の責任で決めるべきだ」と判断をゆだねた。
一方、敷地内のタンクでの長期保管は、廃炉作業に必要な施設がつくれなくなるなどの理由で難しいとした。敷地外への搬出も周辺自治体の理解を得るのが難しいなどと結論づけた。
敷地内のタンクにたまる処理済み汚染水は約120万トン。東電は、タンク増設計画は約137万トン分までで、22年夏ごろに満杯になるとしている。期限を切って「処分ありき」の議論になりかねない状況で、委員からは「敷地内でさらに増設できないか」などの指摘が出た。だが、東電は、計画以上の増設や敷地外での保管に慎重な姿勢を崩さず、小委は最大限の努力を求めるにとどめた。
とりまとめ案は、海洋、大気のいずれの方法でも、風評被害は避けられないため、対策の徹底を求めている。タンクにたまった全量を1年間で処分しても住民の被曝(ひばく)は自然に受ける放射線量の1千分の1以下におさまり、十分に低いと評価した。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル